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雪だるまの雪子ちゃん

読んでいない作品は無かったはずなのに、一冊だけあったのです。ああ、昨年買いそびれていた作品が。
そうして慌てて手にしたのが「雪だるまの雪子ちゃん」(江國香織/偕成社)。
長編の童話。野生の雪だるま、雪子ちゃんのお話です。
結局、わたしの中に住んでいる誰かが、やっぱり「雪子ちゃんだったのか!」とわかってしまったこと。
結局、わたしの中に住んでいる誰かが、「たのしくてしかたない!」と思ったとき、「きもちいいーっ」「おもしろいーっ」と叫んでいたとわかったこと。
結局、わたしの中に住んでる誰かが、「ああ、わくわくする。こんな夜に眠るのなんて、もったいない」と言っていたんだ、とわかったこと。
結局、わたしの中に住んでる誰かの中から、くくく、くすくす、くははは、あははは、と湧き上がる音があるとわかったこと。
江國さんの童話はいつも、わたしを奇妙に安心させる。どのお話しに登場する主人公も、わたしの中にいる誰かだったのだとわかるからだ。わたしの中に住んでいる誰かは、こんなところでちゃんと人々にお披露目されるだなんて、なんと幸運なことだろう。わたしが自分で綴ればいいのに、なぜ江國さんが知っていて、江國さんがお話してくれるのだろう。そんな不思議もありながら、それでもみんなうれしそうにお話の主人公を演じている。
雪子ちゃんを包む本の装丁が、これはもうずっと持ち歩いてしまいたいような山本容子さんの美しい銅板画。
読んでは閉じ、読んでは閉じして表紙を眺めて触って想う。表紙を覆っているカヴァーを外せば本本体の装丁が、これまた美しく鮮やかな花々の彩り。また触って眺めて想って宙を見る。それからゆっくり戻って文字に目を落とす。するとそこに、雪だるまであるよころびをまるまると抱えた雪子ちゃんが「はりきらなくちゃ」と立っている。
こんなふうにゆっくり読める本はしあわせの象徴だ。
「雪は雪だるまにとって、天からの励ましのようなものです。」
ってあったけど、本はわたしにとって、神様からの助けのようなものだ。どんなときにも、本からこぼれてくることばたちが、わたしをしあわせにするからだ。どんな難題に直面していても、どんな緊急事態に巻き込まれていても、どんなに傷ついて誰の慰めもほしくないときも、確実にわたしをしあわせにする。
それはちょうど、雪子ちゃんが雪の中に立ってよろこんでいる姿に似ている。雪子ちゃんが、天からの雪をまとってまるまるよろこんではりきっているように、わたしも本からこぼれることばをまとってまるまるよろこんではりきっていよう。
コメント
[C170]
- 2010-10-12 09:59
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[C171] Re: タイトルなし
藍色さん
ありがとうございます。
わたしも初めてトラックバックさせていただきました。
素敵なブックレビューですね。
ときどき覗かせていただきます。
ありがとうございます。
わたしも初めてトラックバックさせていただきました。
素敵なブックレビューですね。
ときどき覗かせていただきます。
- 2010-10-13 00:11
- 編集
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[T2] 雪だるまの雪子ちゃん江國香織・山本容子
あいらしく、りりしい野生の毎日には生きることのよろこびがあふれています。著者が長年あたためてきた初めての長編童話にオールカラーの銅...
- 2010-10-12 09:22
- 粋な提案
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